「スポーツを仕事にしたい」という時に、地域の活性化につなげるとか地域を盛り上げるといった視点を持つことが最近はますます当たり前になってきているように感じますし、スポーツを通じた地域活性化に関心を持たれている方も増えてきている印象を受けます。
スポーツ×地域ということに関して、私自身が最初に興味を持ったのは、2004年にプロ野球で楽天イーグルスが誕生した時でした。
その前後には、国内で初めて四国にプロ野球の独立リーグが誕生したり、プロバスケでbjリーグが生まれ、チーム数がどんどん増えていったりという動きもあり、追い風になってきている印象を受けました。
一方で現政権は”地方創生”を重点政策に掲げ、スポーツ業界に関わっているか否かに関わらず、皆さん自身も”地方創生”というキーワードを目にする機会が増えたのではないでしょうか?
「地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする」こともその中に盛り込まれていますし、これからは、「(東京ではなく)地方で働きたい」というきっかけから、スポーツの仕事に関わる人が増えていくかもしれません。
そのような状況下で様々な関係者とうまく連携して仕事をしていくために、スポーツ×地域の仕事に携わる上で知っておくべき3つの視点を今回はお伝えさせていただきます。
1.顧客対象は地域内か?地域外か?
ここで言う地域内とは住民や行政、地域外とは観光客や外に拠点を置く法人企業などです。
これは二者択一ということではなく、一般的に「地域を元気にしたい」という時に内を向く傾向にあるというのが一つあります。
第一段階としてまずは、所属している組織がお金をまわしていけることでしょうから、内でも外でも何でも事業として成り立たせることが最優先ではあると思いますが、その次を見据えると、「本当に地域のためになっているか?」をじっくり考える必要が出てきます。
実際に、地域にある公共施設(スポーツ施設)の指定管理料をいただくことで成り立っている地域スポーツ組織も多く存在していますし、「果たして10年先にこの地域は成長していけるのか?」という視点で考えると、指定管理を受けることが得策ではないケースもあると思います。
そして現に指定管理とは全く異なる新しい公民連携の体制で、黒字化している(地域に新しい価値を生み出している)事業も存在します。
※参考記事:岩手県紫波町「オガールプロジェクト」 補助金に頼らない新しい公民連携の未来予想図
では地域外とはどういうことなのか?ですが、わかりやすい事例として、観光庁が積極的に進めようとしたこともあり、マラソンランナーに大会参加とセットで観光を楽しんでもらったり、スポーツ合宿を誘致する(積極的に誘致するために、自治体の要綱に盛り込んでいる事例もあります)などの「スポーツツーリズム」は全国で広がってきています。
今後はスポーツの中でもさらに細かな差別化が求められてくるでしょう。
そんな中、元サッカー日本代表監督の岡田武史氏は、愛媛県今治市にあるサッカークラブ 「今治FC」のオーナーとなり、岡田メソッド(サッカー指導)を確立し、国内外問わず人を集めようとしています。
一方で、秋田県能代市では「バスケの街」を掲げていたり、沖縄県浦添市は「ハンドボール王国都市宣言」を掲げ、スポーツで地域の魅力を高めようとしています。
しかしこのような事例はまだまだ少数で、スポーツ=体育という一般的な考え方も影響してか、どの地域でも似たり寄ったりのことが行われている傾向にあります。
そこで今後はいかに独自のユニークな取り組みを生み出して、外からも人を巻き込んでいけるかがポイントになってくるでしょう。
こうして内も見つつ、外も見ていくことで真の地方創生にもつながっていきます。
2.高齢者に対するサービス提供ができないか?
1で地域外の視点が重要と言っておきながら、もちろん地域内はどうでもいいということではありません。
特に地方において、高齢社会の色は今後ますます強まり、高齢者とスポーツでどのように接点を生み出すかという観点が重要になってくるでしょう。
現状では、医療費削減を目指して、高齢者の健康を促進させるという動きが、自治体が中心となって動いている地域が増えてきている印象を受けます。
中には、万歩計やノルディックウォーキング用ポールを一定期間無償で貸し出すことを要綱に盛り込んでいる自治体も存在しますし、認知症予防という位置づけでダンスを行っている地域などもあります。
ただし、この領域はスポーツというよりも、健康促進の色(=健康のためのスポーツ)が強いですし、新たな接点づくりとまではいっておりません。
これからラグビーのW杯(2019年)やオリンピック・パラリンピック(2020年)が日本で開催されるのに、人口構成の高い割合を占める高齢者の皆さんが全く関心を示さないようでは残念ですし、「健康のため」だけではない、スポーツそのものや人との関わりを楽しんでいただく場づくりとしてのスポーツや「見るスポーツ」に対する関心を持ってもらう方法も今後考えていかなくてはならないでしょう。
現状を見渡すと、「高齢者でも楽しめるチームスポーツ」が存在しないと思いますので、その辺りが鍵になってくるのではないでしょうか?
3.スポーツは目的か?手段か?
スポーツの仕事に携わる上で、スポーツとは何なのか?を改めて突き詰めることは、概念的でたいへんな作業ではありますが、避けて通らない方が賢明でしょうし、1・2で取り上げたことは、「スポーツ=体育」「スポーツ=健康のため」という昔ながらの価値観が根強いことも背景にあると思われます。
では、スポーツ×地域の仕事に携わる時に、スポーツをどのように位置付ければよいかということになってきますが、スポーツだけではどこか自己満足的なところがあって、普通にやっていると、自然とどんどん内に向いていってしまうというのがスポーツの一つの特性と言えます。
(⇒プロスポーツには選手と観客という関係があって状況が変わってきますが、一般的には「地域にスポーツがあってよかった」とか「スポーツを通して地域の人に支えてもらっている」ということを感じにくい)
そこで地域に根付いたことをやっていくには、スポーツを”手段”と捉えることが重要になってきます。
「スポーツを手段と捉える」の意味もわかりにくいかもしれませんが、例えば「行政関係者とのつながり方」においては、スポーツ関連の部署とつながるのではなく、スポーツ以外の部署とつながることの方が手段としてのスポーツが活きやすいです。
スポーツ以外の部署に対して、スポーツを通じた価値を提供していければそれが真の地域貢献にもつながると思っています。
またこれまで3年以上、自身で総合型地域スポーツクラブを経営してきて実感したスポーツの価値には、以下のようなものもありますので、いかにして既存の価値観に囚われず取り組んでいけるかが、携わる上で重要になってくるでしょう。
「つながりづくり、より良い関係性づくりのツールとしての価値」
「クリエイティブな解決策を示せる価値」
「エンターテイメント化することで社会活動分野の敷居を下げる価値」
「国や文化、価値観を超えてつながれる中立的な価値」
以上3つの観点から述べさせていただきました。まだ整理しきれていない部分も多々ありますし、
今回は”スポーツ”とざっくりしていて、プロスポーツかそうでないかによってもだいぶ変わってくる箇所もあるかもしれません。
しかしながら「3つのいずれもあてはまらない・関係しない」ということは少なくともないでしょう。
「スポーツが好きだから」という理由で、スポーツの職についてもよいとは思いますが、やるからには、地域やまちづくりに関するリテラシーを高め、マインドの持ちようや考え方についても意識していっていただければと思います。