コミュニティ

【最終回】成就した恋、終わらない物語――はじめてのUNDOKAI(運動会)、アフリカへ往く⑤

小原裕子(公益社団法人 青年海外協力協会)

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「できること・やりたいこと」をやるだけの彼らの生活に置いたハードル

いよいよUNDOKAI当日。
前日雨が降って開催が危ぶまれたが、天気はなんとかもってくれた。決して涼しくはないが、陽射しはキツくない。絶好のUNDOKAI日和と言っていいだろう。

第1回 「”オタクカルチャー”でも”カワイイ”でもないクールジャパン」
第2回 短期間で片思いを成就させる――開発途上国で働くということ
第3回 マラウイ現地レポ 日本から丸1日、ようやく出会えたキューピッドの名は“坂田さん”
第4回 お見合い写真と愛のムチを持って【UNDOKAI練習篇】
第5回 【最終回】成就した恋、終わらない物語(今回)

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司会進行も審判も全部マラウイ人先生。教育省の偉い人や村長、村民、多くの人たちがUNDOKAIを見に来た。日本の運動会なら先生たちはジャージや体操服姿だろうが、マラウイでは先生たちは皆一張羅。スーツやネクタイ、女性もチテンジと呼ばれる地元産の布を使った服を着用。楽しそうだが若干、緊張の面持ちでもある。

会場には電気がないため、マイクとアンプを動かすのは、お金持ちの村人から借りてきた発電機。マタピラ小の校長先生のあいさつで、いよいよ開幕した。校長の話はチェワ語のため分からなかったが、子どもたちをはじめ、会場が盛り上がったことだけは確かだ。

前回お伝えしたとおり、大縄跳びに綱引き、組み体操にボール運びレース。徒競走、そして水道管パイプに数人またがって走るドラゴンレースを楽しんだ。すべての学年の競技が終わると、それを待っていたかのように大雨が降り出し、すべての競技はできなかったのだが、それでも笑顔と歓声に包まれた4時間は、幸せなひとときだった。

初めはルールもやり方も、何も分からなかった子どもたちが、自分の出番を心待ちにしていた。自分の競技が終わっても、仲間の競技に熱中し声援を送っていた。

スポーツを真ん中にして、人々が集うそういう場をつくりたかった。それはできたと思う。

たしかに先生たちが縄跳びの回数を正確に数えていなかったり、ルールをちゃんと覚えられなかったり、当日失敗してしまったチームが言い争いをしたりと、100%うまくいったとはいいがたい。

でも、それでいいのだ。

日本のやり方ともまったく違う競技になっていた。

それでいいのだ。このUNDOKAIは、“彼らのUNDOKAI”なのだから。

「できること・やりたいこと」をやるだけだった彼らの生活に、「うまくできないこと」という小さなハードルを置き、「他人と協力して克服する」という体験を届けることができたはずだ。

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「Shingoがいなくなるのは困る」

終わってから先生や子どもたちが言った。

「また、UNDOKAIをやりたい!」「YukoとTaichi(筆者と同行したスタッフ)がいなくてもやるよ!」

78人の村長を束ねるグループリーダーのおば様からも「本当によかったわ」とねぎらいの言葉をもらった。彼女はマタピラ地区でとっても偉い人で、定かではないが呪いも使えるらしい。実は地区の78人全員がUNDOKAIに集まったのだが、それは彼女が声をかけてくれたからのようだ(決して恐怖政治ではなく、彼女の存在によって村で起こる様々なもめごとが解決される)。

私の恋は成就した。

多くの関係者や団体のおかげだと感謝しているが、それでもやはり一番大きな要因は、キューピッド坂田がマタピラ村にいてくれたことだ。

先生や子どもたちの「YukoとTaichiがいなくてもやるよ」という言葉には続きがあった。それは「Shingo(坂田さん)がいなくなるのは困る!」というものだった。村の78人を集めてくれた、おば様からも「それからShingo。Shingoは日本に帰らなくてよろしい」との言葉が発せられた。

UNDOKAI当日に限らず、この言葉はマタピラ滞在中に何度も繰り返し、生徒や先生、村人から聞いた。

キューピッド坂田の任期は近く終わるだけに、この点は少し心配ではある。

ともあれ、私たちは坂田さんの恋に横ヤリを入れることで、実質3週間で恋を実らせることができた。そこまでしてマタピラでUNDOKAIをしたかったのは、この恋が叶うことで、もっと多くの人にスポーツのよろこびを伝えるチャンスが生まれるからだ。

 

この恋を愛に変えるために

UNDOKAIの前日、日本から一通のメールが来ていた。この事業をゼロから生み出し、2年をかけてこのような形にこぎつけた、私の所属先青年海外協力協会での上司からである。上司は長く、青年海外協力隊訓練所でスタッフを指揮していた。

彼からのメールには、こう記されていた。

一生懸命に勝るものはない、と信じていますが、ひとりよがりにならない「片思い」も続けていきましょう。

ストーカーにならないように。相手の思いも、受け入れていくように。

追い求め続けていくものが恋。相手から真に受け入れられ、分け与えられ、続いていくのが愛。

私たちの思いが、「恋」から「愛」に変化するように、努力していきましょう

たしかに今回、私の恋は成就した。

だが、この恋物語は終わらない。

上司からのメールにあるように、もしも恋が一方向に追い求めるもので、お互いに与え合うのが愛だとするならば、この“恋”を“愛”に変えないと意味がないのだ。

この恋が愛になるとはどういうことか。

私は、十分すぎるぐらい楽しんでUNDOKAI事業に参画させてもらった。彼らから、たくさんの事を与えてもらった。

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マラウイの人たちはどうだろうか? 確かにUNDOKAIも練習も楽しかったと思う。

だが、この「恋」が「愛」なるとは、我々がいなくとも、マラウイ人先生たちの手でUNDOKAIができるようになることではないかと思う。もっと言えば、マラウイUNDOKAIがどこか別の場所―それはマラウイ国内しれないし、日本かもしれない―へ逆輸出されることである。

とはいえ、先生たちが自らの手でUNDOKAIを運営するためには、まだまだ超えなくてはならない課題がいくつもある。

たしかにUDOKAIの裏側には、関係者の思惑やプロパガンダがあることは認める。

しかし、相手の歩みに合わせ、共に歩む姿勢がある限り、この事業はマラウイの人々にとって“the good”であると信じている。

連載第1回で書いたが、UNDOKAIの開催を事業として勧められたのは、外務省や文科省が推し進めているプログラム「スポーツ・フォー・トゥモロー」(Sport for Tomorrow)があったからだ。これは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの招致をかけたプレゼンテーションで安倍首相の宣言を支える重要なものだ。

首相の宣言は、「オリンピックの聖火が2020年に東京へやってくるころまでには、スポーツの悦びを、100を超す国々の1000万の人々直接届けます」というものだった。

今回のマラウイのほかに、青年海外協力協会が実施したプログラムではグアテマラ、他団体の方々がタイ・ラオス・カンボジアでもUNDOKAIを開催している。だが100を超す国の1000万人にはまだ届いていない。

東京オリンピック・パラリンピックまであと5年。

私たちの挑戦は始まったばかりなのである。

 

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OHARA Yuko
公益社団法人青年海外協力協会所属。公立中学校保健体育教諭、青年海外協力隊(任国 セントビンセント)を経て、ロンドン大学教育研究所大学院(IOE)修了。最近のマイブームは職場にもオリパラの恩恵を届けるべく、同僚を皇居ランニングに誘うこと。