コミュニティ

短期間で片思いを成就させる――開発途上国で働くということ 連載「はじめてのUNDOKAI、アフリカへ往く」②

みんなが2年かけて成就させようとしている恋を、私はたった5週間で実らせようとしている――。

小原裕子(公益社団法人 青年海外協力協会)

中学校の体育のセンセイから青年海外協力隊に転じ、中米セントビンセント(セントビンセントおよびグレートナディーン諸島)でスポーツを教えた筆者が、今度は「運動会」を世界に広める活動にかかわることに。今春、アフリカ・マラウイで開催するUNDOKAIに向けた奮闘の記録。

第1回 ”オタクカルチャー”でも”カワイイ”でもないクールジャパン
第2回 短期間で片思いを成就させる――開発途上国で働くということ(今回)

“協力隊員あるある”は「苦労話の披露合戦」

みんなが2年かけて成就させようとしている恋を、私はたった5週間で実らせようとしている――。

プライベートの話をしているのでは、もちろんない。私も過去に協力隊員として経験した、開発途上国での仕事の話だ。常々、先進国の人間が開発途上国で仕事をするのは、片思いに似ていると思っている。というのも、お互い相手が目の前にいるが、しかし、ものすごーく遠いところにいる者同士が一緒に働くことにほかならないからだ。

* * *

協力隊を経験した元隊員が集まると、派遣された国(任国)の自慢よりも、「どれだけ活動で苦労したか」の披露合戦となる。苦労自慢は、活動がどれだけローカルに密着していたかをはかるものだから、皆、嬉々として話す(身近に元隊員がいらっしゃる方はぜひ、話を振ってみていただきたい)。さながらドМの集まりだ。

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(写真はすべてセントビンセントにて)

ドM話で一番多いのは、やはり“時間”にまつわる話である。「人を時間どおりに動かすこと」は隊員に共通される活動上の苦労だ。相手が大臣クラスだと公式なアポイントメントを取り付けるのだが、それでも「ランチを食べてたから」と遅れる。そして、まったく悪びれない。はじめはびっくりするが、やがて「ランチ食べてたなら、仕方ないよね」と自然と納得するようになる。そうなったら一流の隊員である(ただ、時間にルーズなローカルタイムに慣れてしまい、日本社会へ復帰できない隊員がいるという笑えない冗談もあるが)。

しかし彼らにしてみれば、日本のように365日、同じサイクルで物事が流れていくことのほうが異常なのだ。途上国には、“アテ”になる政府や行政の仕組み、サービスなどというものはない。頼るべきは自分と家族だけだ。雨季は町へ続く道がなくなり、農繁期は学校よりも家の手伝いが優先される彼らからすれば、それもうなずける。筆者が滞在したセントビンセントも同じだった。

日本で起きていることには日本の理由があり、他の国で起きていることにはその国の理由がある。日本人が外国に行って「おかしい」と感じても、その国ではそのやり方が当たり前。要は、外から来た人間が、そこのやり方に馴染めるかどうかの問題なのだ。

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過去に隊員が訪れて活動している場所ならともかく、そうでない場所——過去に協力隊員を受け入れたことがない国や地域——では、隊員は“エイリアン”扱いされる。

そんな中で働くことは、片思いを成就させようと奮闘する姿を思い起こさせる。あの手この手で相手の気持ちを引き寄せ、相思相愛(事業目標達成)にならなければいけない。時間を守ってくれない相手に怒ることなく、お願いしたことができていなくてもキレることなく、ただただ、相手が気持ちよく動いてくれて、一緒にやろうとしていることが(隊員のためでなく)自分たちのためになると分かってもらえるまで、根気よく付き合い、振り向かせ、その気にさせる……。

そもそも、自分たちのことを何も知らない相手のところへ、しかも頼まれたわけでもないのに行くのだ。この恋は相手側に絶対的な主導権があって当然だ(隊員活動は相手国からの要請があってのことだが、現場まで話が降りていないことが往々にしてある)。

 

この大変な恋愛を成就させるのに、隊員に許される時間は2年間。それとて十分とはいえないが、今度筆者がかなえようとしている恋に与えられた時間はたったの5週間。アフリカ・マラウイでわずか1日の運動会をするために5週間の準備期間が与えられた。

フツーに考えれば、恋なんて5週間では実らない。

でも私は、本気でこの恋を実らせよう、実らせられると信じている。次回、マラウイから直接、この恋バナの続きをお届けしたいと思う。

 

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OHARA Yuko
公益社団法人青年海外協力協会所属。公立中学校保健体育教諭、青年海外協力隊(任国 セントビンセント)を経て、ロンドン大学教育研究所大学院(IOE)修了。最近のマイブームは職場にもオリパラの恩恵を届けるべく、同僚を皇居ランニングに誘うこと。

 

 

次回予告「レポート! 現地から記事配信――果たして人は集まったのか? マラウイのある集落の話」