石井邦知(こむすぽ編集長)
「遊びからスポーツ」と「スポーツから遊びへ」……
「スポーツも遊びも」のこむすぽ
「こむすぽは、“スポーツ”という縛りに限らない、身体を動かす“遊び”も射程に入れた、新しい概念として解釈してはどうか」——。
6月に開催した第1回のこむすぽオフラインミーティングで、ビズデザイン株式会社代表取締役の木村乃氏に、こういう指摘、提言をいただきました。
スポーツはもともと遊びから進化したものだと言われています。その違いの一つが、スポーツにはルールや審判が存在することです。もちろん遊びにもルールはありますが、スポーツは基本的に、国や地域による違い、世代による違いはありません。ルールの変更があった場合は別ですが、基本的には、サッカーは手を使えませんし、野球でバッターは打ったら右方向に走るなど、基本は同じです。またたいていの場合、ルールとして明文化されています。
その点、プレイ方法や楽しみ方に統一された、かつオフィシャルな決まりがない“遊び”は“スポーツ”とは異なるものと捉えられています。
たとえば遊びからスポーツになった例として挙げられるのが「スポーツ鬼ごっこ」です。“遊び”としての鬼ごっこでは、ローカルルールなど独自の楽しみ方だった部分も、“スポーツ”という枠組みで捉え直されることで統一されました。その結果、異なる地域や世代の人同士で競い合ったり楽しんだりすることができるようになりました。これはある種の「進化」といっていいのではないでしょうか。
こうした良さがスポーツにはあるのですが、反面、「体育」や「勝負の世界」といったスポーツのイメージ、固定観念を持ってみられてしまうという懸念もあります。ですから、逆に“スポーツ”を「退化」させて“遊び”に近づけることにより、これまでスポーツとは関わりのなかった人々も含め誰でも楽しめる機会を生み出すという動きも必要ではないかと感じています。
こうした、スポーツや遊びの違いは認識しつつ、そのどちらでもない、どちらも含めた新しい考え方にこそ「こむすぽ」のめざす方向性があるように思います。
そこにいる人に合わせて柔軟にルールを変えるやり方・考え方
私が運営しているきゅぽらスポーツコミュニティ(総合型地域スポーツクラブ)で定期的に行っているバレーボールは、“スポーツ”というよりも“こむすぽ”であると考えています。
たとえばその理由の一つが、ルールの柔軟な変更です。
毎回、参加者全員同じということはありませんので、参加者の状況に合わせてネットの高さを変えたり(=低くすることでスパイクを打ちやすくなる)、チームの人数を6人から7人にしてみたり(=コートにスペースが減ってラリーが続きやすくなる)、女性のスパイクを2点にするなど加点方法を変えたりしてみる(=点差が開いても「逆転できるかも」と思える)などの工夫をしています。
またハロウィンの時期である10月限定で、被り物をしてプレイする日も毎年設けています。こうした楽しみ方を取り入れることで、遊びとしての要素はさらに強まります。
こうした柔軟なルールの変更は、誰でも気軽に参加できるようにするための工夫です。その甲斐あってか、半数以上の方がバレー未経験者の方で占められています。ママさんバレーチームを除けば、こうした集まりは全国でも珍しいのではないでしょうか。
しかし、初めて参加する未経験者からは、「未経験者でも参加できますか?」という質問がよく寄せられます。このことから感じるのは、「まわりに迷惑をかけないか?」という不安感や、「スポーツは経験者がするものだ」という思い込みが多くの方の心の中にあるということです。これは従来の「スポーツ」というものに対する印象や、「スポーツはこうあるべき、こうあるのが自然だ」という固定観念が生んでいるのではないでしょうか。その結果、バレーを楽しむというせっかくの機会を失ってしまっている、とはいえないでしょうか。
各地で廃止される地域の運動会やスポーツイベント
「こむすぽ」的な発想があれば廃止をくい止められる
「スポーツ」という枠組みではなく、「こむすぽ」的な発想で、うまくいっていると感じているもう一つの事例が、きゅぽらスポーツコミュニティで開催している「運動会」です。
最近は町会などのコミュニティで行われていたソフトボールやバレーボール、運動会が廃止されたという話が聞かれます。原因は少子高齢化など様々な要因があるでしょうが、その一つに、スポーツにこだわりすぎていた側面もあるのではないかと考えます。
他の町会と試合をしたり、地区の大会に出たりということも目的の一部にはあるでしょう。しかし、コミュニティ内、組織内、近隣の住民同士の「親睦を深める」という目的のほうが大事なのではないでしょうか。9人集まらないからソフトボールはできない、ネットがないからバレーができない……そうした場合に「こむすぽ」的な発想があれば、参加できる人たちだけ、楽しみたい人たちで、どうやったらできるか、楽しめるかという考え方になると思います。たとえ地域の住民が高齢化していても、それなりの楽しみ方はあるはずです。
きゅぽらの運動会も、広い場所を確保したり、綱引きの綱や玉入れのカゴなど本格的な用具を買う費用を捻出したりできませんでした。しかし、「だからできない」ではなく、「(バドミントンコート2面分くらいの)小さめのスペースで、十分な用具がないという現実を受け入れた上で、どうやって楽しむか」という考え方をしました。そうした考え方があったことが、今では大人と子どもが一緒になって楽しめるオリジナルの運動会を定期的に展開できるようになった理由だと自負しています。
仲間や知らない者同士が集まって、一緒に身体を動かして楽しむ機会。それは「スポーツ」でもあり「遊び」でもありますし、そのどちらでも構わないはずです。しかし、そのどちらかと決めつけることで、多くの人から楽しむ機会を奪い、可能性の幅を知らず知らずのうちに狭めているのではないでしょうか。こうしたもったいない状況を変える為にも、「こむすぽ」という新しい発想、考え方を広めたいと思っています。
石井 邦知 ISHII Kunitomo
2011年2月に埼玉県川口市を拠点に総合型地域スポーツクラブきゅぽらスポーツコミュニティを設立。主に(フットサルやバレーボールなどの)チームスポーツと(異業種交流、国際交流などの)テーマを掛け合わせた活動を行い、新たに30以上の新規の企画創出(協働を含む)を実現。
これまでの取り組みの標準化と他地域の展開を目指して、2014年3月に一般社団法人日本コムスポーツ協会を設立(代表理事)。
http://twitter.com/ComComSports