コミュニティ

集中連載第1回 「”オタクカルチャー”でも”カワイイ”でもないクールジャパン」 

小原裕子(公益社団法人 青年海外協力協会)

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私たちがみな学校で経験した“アレ”も日本の魅力

「クールジャパン」といえば、アニメやゲームなどの“オタクカルチャー”や、きゃりーぱみゅぱみゅ、原宿・竹下通りで見かける女の子たちのファッションなどの“カワイイ”文化などを思い出す人は多いだろう。

日本の魅力を世界に伝えようというこのクールジャパンだが、私たちが学校で経験してきたあるイベントをその一つと考え、外国に輸出しようという企画がある。

さて、それは何だろうか?

私たち日本人ならだれもが学校で経験していること。小学校、いや幼稚園や保育園から、中学、高校でも行われている。季節は春だったり秋だったりする。最近では会社でも行われている――。

 

正解は「運動会」だ。
みなさんは、運動会にどんな思い出があるだろうか。 青空に揺れる万国旗、手がくさーくなる綱引き、触れてるつもりでほとんど触れない大玉ころがし、異性を意識して手をかるーく合わせただけのフォークダンス……。酸いも甘いも、運動会には誰もが青春の一ページを飾る思い出があるだろう。 普段の教室では生まれない人間関係が運動会では生まれる。ドラえもんの長編映画でジャイアンが正義の味方になるように、教室ではいけ好かないあいつがイイ奴に変わったりする。かけっこが速くなくたって、応援団長が一番モテたりする。

意外かもしれないが、海外では、誰かが用意してくれるスポーツイベントは存在しても、準備や練習にこれほどまで特化した、自分たちでつくる行事はない。日本の“運動会”は、スポーツの対抗戦を超えた、ひとつのコミュニケーション活動なのだ。

2020年東京五輪の決め手は、日本でやるけど“日本だけじゃない”こと

「O・MO・TE・NA・SHI」--。

2020年の東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京オリパラ)の招致が決まった2013年9月、IOC総会で滝川クリステルさんが行ったプレゼンテーションは注目され、繰り返し報じられた。たしかに大きなインパクトを与えたプレゼンではあったが、スポーツ関係者がそれ以上に評価しているのが、同じ月にアルゼンチンで行われた、五輪招致をかけた最後のプレゼンテーションでの安倍首相の公約だ。

安倍首相は、「オリンピックの聖火が2020年に東京へやってくるころまでには、スポーツの悦びを、100を超す国々の1000万の人々直接届けます」と高らかに宣言。これが決定打となったともいえる。

この公約の屋台骨となったのが「スポーツ・フォー・トゥモロー」(Sport for Tomorrow)というプログラムなのだが、残念ながら、あまり知られていない。クールジャパンやオモテナシは五輪への“アプローチ”の仕方として間違いではないのだが、決して五輪の“テーマ”ではない。
IOCが評価した東京オリパラのコンセプトは、東京での開催による恩恵を国内のみならず国外にももたらすという点にある。その屋台骨であるとなるスポーツ・フォー・トゥモローは、外務省、文部科学省が担当。文科省下で次の3つの事業が進められる。

  1. スポーツ・アカデミー設立形成事業
  2. 戦略的二国間スポーツ国際貢献事業
  3. 国際アンチ・ドーピング強化支援事業

(文部科学省平成26年度概算要求主要事項より)

それぞれの事業を簡単に紹介すると、
(1)  の「スポーツ・アカデミー設立形成事業」はオリンピック精神に基づくスポーツ活動を研究し、スポーツと社会活動をつなぐことのできる人材を国内外から集め、高等教育機関(大学院など)で育成すること

(3)の「国際アンチ・ドーピング強化支援事業」は世界アンチ・ドーピング機構(WADA)との連携を強化し、日本がアンチ・ドーピング推進を積極的に支援すること。

そして、(2)の「戦略的二国間スポーツ国際貢献事業」は、開発途上国のスポーツ環境を向上させるため、学校体育と競技スポーツ、2つの側面から支援を行うものである。

実はこの(2)が筆者が担当している事業で、これからシリーズに渡ってご紹介していく内容だ。 その一環で、冒頭に紹介した、チョー日本的感覚の「運動会」を、開発途上国でやることになった。

筆者は近く、東アフリカにあるマラウイという国で運動会をするため、これから海を渡る。 このシリーズは、日本の運動会を世界の果てに届ける活動にまつわるストーリーである。

次回予告 「短期間で片思いを成就させる――開発途上国で働くということ」

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OHARA Yuko
公益社団法人青年海外協力協会所属。公立中学校保健体育教諭、青年海外協力隊(任国 セントビンセント)を経て、ロンドン大学教育研究所大学院(IOE)修了。最近のマイブームは職場にもオリパラの恩恵を届けるべく、同僚を皇居ランニングに誘うこと。

連載タイトル「はじめてのUNDOKAI(運動会)、アフリカへ往く」

中学校の体育のセンセイから青年海外協力隊に転じ、中米セントビンセントで体育を教えた筆者が、今度は「運動会」を世界に広める活動にかかわることに。今春、アフリカ・マラウイで開催するUNDOKAIに向けた奮闘の記録。