スポーツレク

全国ビリの投力の子供たちに埼玉西武ライオンズが投げ方を教えた話 第1回「危機感――ライオンズとコラボした理由

伊倉晶子(公益財団法人 埼玉県体育協会 クラブアドバイザー)

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2008年以降、4回も“ビリ”に

「打ったら1塁のほうに走るんだよ!」――。

連休のさなかの5月4日(月)、野球を知らないチビっこたちを対象にした「親子キャッチボール教室」が埼玉県志木市で行われた。参加者はほとんどが野球のことなど知らず、1塁に走るのが分からなければ、当然、1塁から2塁への進塁も分からない。そんな子供たちを教えたのは埼玉西武ライオンズアカデミーのコーチ2人だった。

このイベントは、一般社団法人彩の国SCネットワークと埼玉西武ライオンズの共催で行った初めての試みだ。筆者はこのイベントに、彩の国SCネットワークを支援する県体育協会の立場として関わっている。ちなみにこの彩の国SCネットワークは、県内88の総合型地域スポーツクラブが会員の団体だ。

なぜこんな取り組みを始めたかといえば、「埼玉県がビリだから」である。

文部科学省がほぼ毎年、全国の小学5年生などを対象に実施している「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(全国体力運動能力テスト)。埼玉県の小5は、男子が総合で6位、女子が5位なのだが、ことボール投げ(遠投)に限ってみると下位を横ばい。男子は2008年、09、10、12年で最下位。女子は2008、09、10年で45位だ。最新のデータでは、ともに少し上がって男子が45位、女子は39位だが、47都道府県中だから高いとは決して言えない。

県体育協会のアドバイザーである私ができることは何か。「投げる」力をつけるためにどうしたらいいか考え、「投げる=野球=埼玉だから西武ライオンズ」という図式がひらめいた。まず正式に話を進める前に、彩の国SCネットワーク加盟のクラブにライオンズとのコラボを打診してみたところ、県内6つのクラブから関心ありとの返事。そこで西武ドームに行き、事業部(コミュ二ティグループ)の担当に相談を持ち掛けると、こちらも好感触だったので、ネットワークに正式に提案、一気に話を進めた。

もともと県体育協会とライオンズとの間では、お付き合いがあった。たとえばスポーツ少年団への割引チケット配布してもらうというようなものから、個別のスポーツクラブで、ライオンズと共催で三角ベース大会などのイベントを開催するといったものもあった。このため、西武ライオンズがファン獲得のための取り組みをしていることは知っていた。たとえば他の球団と同様、野球の普及のための教室。「ライオンズアカデミー」の名称で元プロ選手のコーチが教えるものだ。

しかし、こうした活動の対象は、主に「野球をしている子供たち」が対象だ。これでは、「野球に興味がない子供たち」を惹きつけられないだろう。そこでライオンズには、「総合型地域スポーツクラブの集合体である彩の国SCネットワークと共催することで、野球をしていない、興味がない層にもリーチできる」というメリットがあることを訴えた。

最初の取り組みが、冒頭の「親子キャッチボール教室」だ。18組36人の親子が参加。ほとんどがお父さんと未就学児から低学年の子どものペアだった。元プロの2人のコーチが指導を担当。

投げ方の説明後、遠投するが、だれもまったく飛ばない。続いてキャッチボール。捕るコツとしてコーチが「ワニさんのオクチのように、胸の前でパクッと受け取る」と分かりやすく説明。ただ「投げる」よりも、相手と話し笑いあいながらできることも大きかったようで、コミュニケーションを深められたようだった。その後、冒頭でも紹介したように、実際に野球のようなゲームを少しして、約2時間のイベントは終了。初めての試みは、成果や気づきもあった反面、課題も浮き彫りとなった。

次回は、イベント当日の様子を詳報したい。

 

Profile

IKURA Akiko 公益財団法人埼玉県体育協会クラブアドバイザー

ikura
1999年公益財団法人日本レクリエーション協会在職時より総合型地域スポーツクラブに携わり、2000年、埼玉県志木市にNPO法人クラブしっきーずを設立。小学校をベースとした総合型クラブはめずらしく、先進事例として全国に紹介される。東京都体育協会、埼玉県体育協会のクラブアドバイザーを歴任。クラブ間、プロスポーツ、大学、企業等との連携をテーマにクラブ運営支援を行っている。