レポート

【筑波8耐】(自転車)どんなに辛くても毎年参加してしまう理由––アラフォーライター・スポーツ体験記⑤

7/11(土)に行われた筑波8時間耐久レース。茨城県つくば市のサーキットで毎年夏と秋に行われている、自転車のレースだ。8時間を1チーム最大6人で交替しながら自転車で走り抜く。10年以上前から参加しているが毎年開催日が迫ると「行きたくないなぁ」と逃げたくなる過酷さなのに、終わると「また来年も!」と思ってしまう不思議な魅力がある。今年も早朝、眠い目をこすりながら筑波へ向かった。

浅野慎二(エンジニア)

001

07:00 再会
「またこの日が来ちゃいましたね……」

チームメンバーとは1年ぶりの再会。今年は5人と4人の2チームにピットクルー1人の計10人でエントリーした。

「またこの日が来ちゃいましたねぇ」

ひとまずお決まりの挨拶を交わした後は、レース中の待機場所にテントを張ったり走る順番を決めたりして長い一日が始まる。

全体で約200チームが参加。カテゴリーは「ロードバイク」のクラスや「ロード・クロスバイク混合」のクラスに加え「男性」「女性」「男女混合」でも分けられている。私のチームは「ロード・クロスバイク/男女混合」のカテゴリーだ。

ちなみにクロスバイクとはロードバイクとマウンテンバイクの中間で、ハンドルもドロップハンドルではなくフラットハンドルで街乗りにも向いている。

コースは1周2kmで、16回以上交替しなければいけない。1周の平均タイムはロードバイクで2分台。クロスバイクでも3~4分台だ。例年では平均4周(8km)でどんどん交代する。だいたい1回のライディングは15~20分で、1時間ほど休んでまた順番となる。これを8時間の間に5回ほど繰り返す。

だがラスト30分はピットイン禁止のため、アンカーは自然と30分以上走ることになるので誰もやりたがらない。30分以上全力で走るのは相当辛い。

 

08:00 フリー走行
「できれば走りたくない」「来なきゃよかった」

フリー走行はできれば走りたくない。

体力は温存しておきたいからだ。だがクロスバイクでも場所によって時速40km以上出るので整備不良などあってはタダではすまない。だからフリー走行でのバイクの状態確認は重要だ。

景色を楽しみながらペダルを漕ぐとコースの記憶も甦ってくる。

「あぁ、ここが最初の難関の昇り坂だ」
「うぅ、ここで向かい風がくると堪らないんだったなぁ」
「おぉ、このバックストレートで最後の体力を搾り取られるんだった。」

1周走り終えたころには完全に体も辛い記憶を思い出すのだ。

「やっぱり来なければよかった……」

 

10:00 スタート
200台のバイクが一斉に飛び出す様子は壮観

 

9:00から各チーム1人が参加できるタイムトライアル(1周のタイムを競う)が始まる。我がチームからはもちろん誰も参加しない。こんなところで体力を使ってはいけない。

002

スタート10分前。
各チームのファーストライダーがホームストレートの脇に並びスタートを待つと徐々に鼓動が高鳴ってくる。

「また暑い8時間が始まる!」

スタートと共に約200台のバイクが一斉に走り出す様子は壮観だ。周回を重ねるメンバーに声援を送り自分の順番が来るのを待つ間が、この1日で一番緊張する時間帯かもしれない。

今回は5番手に決まったので乗るまでに1時間以上ある。

 

11:00 自分のスタート
コースに出たらまず“スリップストリーム”の相手を探せ

ピットではクルーがラップタイムを計測するのだが、これがレースを過酷にするひとつの要因だ。手を抜けばすぐタイムで分かるからだ(余談ながら数年前、メンバーが3分台を連発する中、筆者が一人5分台を出してしまい、結果1ラップ差で優勝を逃した苦い記憶がある)。

003

そして自分にとって本日1本目がスタート。

まずやるべきことは自分と同じレベルのライダーを見つけてピッタリと後ろにつくこと。いわゆる“スリップストリーム”というやつだ。この効果は絶大で、一人で風を受けて走る時の半分以下の体力で同じくらいのスピードが出る。スリップストリームの相手がいない状態を“ひとり旅”と呼ぶが、その辛さは尋常ではない。最悪なのは向かい風の登り坂でのひとり旅。いくら漕いでも前に進まず体力だけが奪われる。

ちなみに自転車では漕ぐ力が無くなることを『足が無くなる』といい、このスリップストリームの集団が『トレイン』。トップグループのトレインの迫力には見惚れてしまう。

004

 

14:00 後悔の午後
「今年で終わりにしよう」

灼熱の中、1本目を終わりピットに戻ってくると毎年思う。

「なんでこんな辛い事しなきゃいけないんだ」

そして2本目が終わるとこう決意する。

「今年で終わりにしよう。もう来年は絶対出ない」

 

頭から水をかぶりゼリーで栄養補給。

この時間帯はメンバーを応援しながらひたすら暑さに耐える。ライディングでも無理しない。欲張りすぎて自分より速い人について行こうとすると、途中で離されて結局“ひとり旅”になってしまうことになる。これを“千切られる”と言うが、さすがに10年参加していると相手選びのコツもつかめている。自分に相応しい相手選びが基本なのだ。

005

 

16:00 アンカー決定
一年で一番おいしいトマト

陽も傾いてくると暑さもやわらぎ、体も慣れてくるのか食欲が湧いてくる。ここで食べるのがトマト。これがどんな安いトマトでも1年で一番美味しいトマトに変身してしまう。

006

レースも残り2時間を切って最後のライディングを残すのみとなってくるとそろそろ話題になってくるのが、誰がアンカーをするかだ。私は昨年アンカーを務めたので権利を放棄し、残りのメンバーで喧々諤々。上でも触れたとおり、最後の30分はピットインができないため、誰もやりたがらないのだ。何度か譲り合い精神のキャッチボールが行われた後にアンカーは決定する。これも毎年恒例のやり取りだ。

007

 

18:00 ゴール
夕暮れを走るトレイン 辛さが充実感に変わる魔法

008

17:30。アンカーがスタートする。

ゴールまでライダーチェンジできないので、休憩していたメンバーも集まりコース際で声援を送る。夕暮れの中、疾走するトレインを見ていると、不思議と辛かった今日一日の記憶が充実感に変わっていく。

毎年これに騙されるのだ。

日常ではなかなか感じられない心地良い疲労と達成感をメンバーと共有するこの感覚。これで魔法にかかり、「また来年も……」と思い始める。

18:00。ゴール。一気に押し寄せる解放感とちょっとした寂しさ。楽しかった旅行が終わってしまった時の寂しさに似ている。

010
011完走後にメンバーと(右から2人目が筆者)

 

今年のラップ数は119周。距離にすると238km。新幹線でいうと東京-浜松間。ちなに私個人のラップ数は22周で44km。約1時間30分のライディングだった。

 

来年の筑波8時間耐久レースは30周年の節目の大会。

来年を最後に引退しようと思っている。

 

 

……と毎年言っている……。

 

asano

浅野慎二 ASANO Shinji

1974年生まれ。スポーツ好きのITエンジニア。仕事の傍らヒューマンアカデミーの『スポーツマネージメント講座』修了。もっと気軽にスポーツを楽しめる世界を目指し活動中!!