コミュニティ

”青学っぽさ”こそが優勝の理由――卒業生が語る青学、箱根駅伝初優勝の意味

青木冬子(青学OG、元体育会体育会バドミントン部主将・主務)

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体育会的なノリと対極にある“青学っぽさ”

2015年1月3日、第91回箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)は青山学院大学の初優勝で幕を閉じました。その初優勝のタイムは10時間49分27秒で、2位に10分以上の差をつけた驚異的なものでした。メディアは「原監督の手腕のおかげだ」とか、「選手が自立していたからだ」などと報じています。大学が陸上部を強化したともいわれており、そのいずれも間違いではないでしょう。私が卒業生として感じたのは、実に“青学っぽい”優勝だったなということです。

青学に対する世間のイメージは「チャラい」「お嬢さま、おぼっちゃまがいる」「自由」「洗練されてる」「(偏差値も努力の程度も)そこそこ」といったものでしょう。これらは卒業生としても納得がいきます。青学の学生たちだって頑張らないわけではないのですが、その姿勢を前面に出しガツガツするのはカッコ悪いと思っているように思います。勝利のために規則や上下関係を厳しくする従来の体育会的なやり方、考え方と“青学っぽさ”は対極にあります。

ただその“青学っぽさ”を殺さず、その良さをいい形で引き出せたことが結果につながったのではないかと感じました。陸上部も例外ではありません。「走り出す直前まで笑顔が絶えず、髪形も自由なら整列もどこかそろわない」、監督と話す際も「冗談も恋愛トークもOK」などは青学っぽさそのものです。原監督が掲げた今年のテーマは「ワクワク大作戦」でした。報道によれば、原監督は「長距離のイメージが厳しい、つらいでは、若い人も陸上をやろうとは思わないと思う。とにかく楽しくワクワクするところだと思ってほしい」と説明したといいます。まさにこのネーミングそのものが青学らしさ、自由な校風の証明だと言えるでしょう。

今回、青学が強かった理由は、練習はしっかりこなしながら、おしゃれ、恋愛も楽しむという、オン―オフの切り替えがうまくできたことだったのではないでしょうか。結果を出したいま、こうして分析するのは簡単ですが、こんな思い切った方針で重要な大会に臨むことはなかなかできることではありません。2位の東洋大は「その1秒を削り出せ!」だったといいます。「ワクワク大作戦」を掲げて戦えたこと自体に、青学っぽさを感じるのです。

ワクワク大作戦から学び取れること

こうした青学っぽさは、応援する側からも感じられました。現役生、卒業生を問わず、今年応援していた人たちの中で、「母校のために!!」といった熱い気持ちをあらわにしていた人は少なかったように思います。私がFacebookやtwitterを見たかぎり、「特別愛校心があった訳ではないけど」とか「久しぶりに青学だったと気づいた」などという投稿が多かったように思います(笑)。サンプルは決して多くないですが、早稲田や明治とはまた違った雰囲気があります。

ただ、私はその熱血漢がいない雰囲気も青学の特徴であり、よいところだと思います。

大学から強化に力を入れている特定の部活(指定強化部)はプレッシャーがあるでしょうが、学校全体でみればスポーツへの関心が薄いためか、ほかの大学に比べて自由にそして主体的に練習に励んでいる部が多いと思います。のんびりしているというのでしょうか、そういう雰囲気があります。

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初優勝後のインタビューで、陸上部の選手も「楽しかった」と口にしています。私も在学中、体育会のバドミントン部に所属しており、相当練習しました。たしかに辛かったですが、楽しかったとも記憶しています。原監督の作戦、方針が「楽しむ」ことに力点を置いていたのですから、陸上部選手が「楽しかった」とコメントしたのも当たり前かもしれません。

しかし、そもそもその作戦を掲げること自体が常識やぶりだったわけです。その「楽しむ」方針を掲げて、2位に圧倒的な差をつけた劇的な優勝という結果をたたき出したのが、ほかでもない青学だったというところには、偶然ではない何かを感じます。大学の雰囲気、青学らしさというものが根底にあったからこそ、原監督の作戦が受け入れ、結果につながったのではないかと思わないではいられません。

お正月の風物詩であり、スポーツ関係者、業界に限らず広い分野に大きな影響がある箱根駅伝で、そんな雰囲気を持つ青学が優勝したこと――。それは、「スポ根」のイメージが付きまとう大学体育会に吹いた“よい風”だったといえるのではないでしょうか。

今は主体性、自立が求められる時代です。黙って日々を過ごしていれば、エスカレーターに乗ったように進んでいき、幸せな人生を送ることができる……という時代ではありません。困難も増えているなかで、どうやって人生を生きるのか、主体的に考え、行動することが求められています。自分で考えて決め、行動することには苦労も伴いますが、一方で、決められたとおりにやって何かを達成するのと比べれば充実感も格段に高いでしょうし、楽しいと感じられるはずです。陸上や駅伝をやっていない人でも「ワクワク大作戦」をテーマに何かに取り組むことはできます。歯を食いしばってがんばることももちろん大切ですが、それ以上に、肩の力を抜いて楽しもうという気持ちを持つことが、いい結果を出すための秘訣なのかもしれません。

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プロフィール

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青木冬子 AOKI Fuyuko
元青山学院大学体育会バドミントン部主将&主務(2009年卒)。(スポーツ推薦ではなく)一般入試生ながら4年間バドミントンに打ち込む。現在はゲーム会社に勤務の傍ら、将来スポーツ事業に関わることを目標に日々邁進。MBA取得を目指す。
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