コミュニティ

体育会の学生がアピールできるのは大会だけじゃない

——障害者スポーツ団体との交流活動で生まれた新たな価値

内藤 公広(NPO法人デフテニスジャパン代表)

体育会は就活に有利? 不利?

「大学の体育会は就職に有利」——。

こんな“都市伝説”がある。大学公認の運動部で、練習や大会出場などを熱心に行う体育会。サークルや同好会など、大学非公認だったり、練習など本来の活動より部員同士の交流を重視したりする団体とは線引きされる。就職に有利な理由として、練習に明け暮れるうち体力や根性がつくこと、上下関係重視という企業人としての素養が身に付いていること、多くのOB、OGが人気企業に在籍していることなどが挙げられる。
たしかにそうした面もあるが、実際は就活に有利とは限らない。むしろ部活に力を入れれば入れるほど、就活は大変だ。たとえば就活が始まるのは大学3年の秋だが、活動が盛んな体育会は4年生まで活動する。体育会のテニス部員にとって最大の目標は4年の8月にあるインカレで、「就活が忙しいから最後のインカレで結果が出ないというわけにはいかない」(都内私大3年生)というのだ。
大会での入賞など結果を残せた学生はいい。就活でのアピール材料があるからだ。しかし結果が出せなかった学生は厳しい。大学生活のほとんどの時間を部活に割くためアルバイトもできないし、「将来何をしたいのか」と自分と向き合う余裕がないことも珍しくないからだ。

単にスポーツに打ち込むだけの場でなくなりつつある体育会

それでは体育会での活動では、メリットが得られないのだろうか? 私は決してそんなことはないと思う。たとえば早稲田大のテニス部は、ジュニアクリニックを定期的に行い、地域の小学生と交流するなど、部活、テニスを通じた地域貢献をしている。また、亜細亜大・早稲田大・慶應義塾大では、世界ランキングを取得できる大会を学生たちが運営している。世界規模のイベントを学生時代に運営できるのは、十分なアピール材料になるはずだ。

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実は私が代表を務めるNPOデフテニスジャパンも、こうした学生の社会経験の機会を提供している。デフ(Deaf)とは、聴覚に障害を持った方々、聾者のこと。NPOでは、デフテニス選手と大学体育会の学生に交流してもらう活動をしている。目的は練習・試合を一緒にすることで、聴覚障害者の特徴を理解し、言葉に頼らないコミュニケーション方法を考えてもらうことだ。

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聴覚障害者テニスといっても、ルールは変わらない。ただ手話コールという手話を使ってのスコアの表現が必要なだけだ。しかし選手たちは音でのコミュニケーションが難しいので、筆談ボードを使うなど、それぞれ工夫をして会話をする(写真)。午前の練習後、昼食をとりながら懇談会を開き、テニス以外の話もして交流を深める。午後には大学生と聴覚障害者テニス選手がペアを組んでダブルス。こうして1日一緒に活動するうちに、大学生たちの身振り手振りが大きくなり、コミュニケーション方法がどんどん変わるのが分かる。
体育会は、ただそのスポーツに打ち込むだけの場所ではなくなりつつある。社会との交流・障害者との交流、イベント運営などを通じた社会教育の経験の場へと変わっているのだ。これらの活動を経験することで、就活で自分らしさをしっかりとアピールできるようになるはずだろう。実際、企業での面接でデフテニスジャパンとの活動を踏まえた自己PRして内定を獲得したという感謝の連絡をしてくれた学生もいる。「部活で忙しい」「アピールする材料がない」という体育会の学生は参考にしてほしい。

PROFILE

内藤公広(NAITO Kimihiro)

NPO法人デフテニスジャパン代表

プロテニス選手として活躍。引退後、指導者として全国を目指すジュニアから一般の方々まで広く指導を行っている。2010年に日本ろう者テニス協会の日本代表コーチに就任、障がい者スポーツの現状を知り、障がい者と健常者をスポーツを通じて相互理解を行う団体、NPO法人デフテニスジャパンを2013年に設立。 https://www.facebook.com/kimihiro.naito.1

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NPO法人デフテニスジャパン

2013年設立。ノーマライゼーション促進を目的に、障害者と健常者のスポーツを通した交流を促進する活動を続けている。今後はデフテニスに限らず、「体育会×障がい者」の交流の場を増やし、学生には自分らしさ再発見の場、障害者には自分の障害を詳しく伝え、パフォーマンスを向上できる場にしたいと考えている。
http://deaftennisjapan.wix.com/deaf-tennis-japn